コラム

現地速報 レニングラード国立歌劇場を訪ねて

劇場外観写真
大勢の人で賑わう劇場

  レニングラード国立歌劇場が新しくなりました。今年の5月に幹部が入れ替わったのに伴い、今シーズンに向けて劇場そのものが改修工事を行ったのです。10月6日のオープニング公演に合わせ、秋風も肌に冷たいサンクト・ペテルブルグに飛びました。
 長年親しまれたボヤルチコフに替わり、マリインスキー劇場のスター、ファルフ・ルジマトフがバレエ団の芸術監督になったというニュースは、地元ペテルブルグでも驚きとともに報じられました。オペラの芸術監督には、現役の歌手として世界的に名を知られるエレーナ・オブラスツォーワがモスクワから招かれ、また劇場総監督には貿易マンであるウラジーミル・ケーフマンが就任しています。

オペラ部門芸術監督オブラフツォーワと首席指揮者アニハーノフ ビュッフェ

  オープニング当日、「ミハイロフスキー劇場」と正面に書かれた建物は、クリーム色の化粧もあざやかに私たちを迎えてくれました。大公ミハイルの名を冠した発祥時の劇場名を、復活させたのです。劇場のなかはまた目を見張る美しさ。従来の色調とデザインをほとんど変えることなく、オレンジ色の緞帳を新調し、壁の装飾をプラチナ・ブロンドに塗り変えました。サーモンがかったオレンジ色の座席もふかふかとすわり心地よく、大きくなっていました。でももっとも大事なのはおそらく、音響設計士の豊田泰久氏によるオーケストラ・ピットその他の改修でしょう。わずか4ヶ月半で成されたこれらすべての改修工事には、ケーフマン氏が多額の私財を投じたと言われています。


コレゴワ&マトヴィエンコ「ドン・キホーテ」

  そしていよいよ、初日の『ドン・キホーテ』の開幕。    
見慣れた第一幕の広場も、群集も、いつもよりいきいきして見えるのは、ダンサーたちの気持が高揚しているせいか、あるいは私たちの心が期待に弾んでいるせいなのかもしれません。主役キトリに扮するアナスタシア・コレゴワは、マリインスキー劇場から呼ばれたゲスト・ダンサー。くっきりした目鼻立ちと理想的な足のラインを持つ新人で、活発というより、おっとりした個性でていねいに見せます。バジルには、いまや世界でひっぱりだこのデニス・マトヴィエンコが扮し、軽やかな回転技をこれでもかと披露します。もう一人のゲスト、ボリショイ劇場のアルチョム・シュピレフスキーは、長身を生かして、熱気あふれるエスパーダを演じ、まさに広場の華でした。

コシェレワ扮する大道の踊り子 ドン・キホーテとサンチョ・パンサのデモンストレーション シュピレフスキー演じるエスパーダ

  しかしもっとうれしかったのは、当劇場のいつものメンバーが、随所で大事な役を占め、舞台を味わい深くしていたことです。とりわけドン・キホーテ役のマラート・シェミウノフは老人の胸中に燃えあがるヒロイズムを輝く瞳にたたえ、いつもより大胆な立ち回りを演じていました。新体制になってから、団員は30パーセントが入れ替わったと言われますが、ソリスト陣は森の女王のオクサーナ・シェスタコワ、大道の踊り子のイリーナ・コシェレワを始め、ほとんどが以前の顔ぶれで、キャラクター・ダンスのベテラン、ナタリヤ・オシポワの顔を見たときはなんだか安心した気分になったものです。


「ドン・キホーテ」カーテンコール 終演後、ルジマトフよりねぎらいの言葉がかけられる

  終演後の舞台裏では、新芸術監督のルジマトフがダンサーやスタッフたちにねぎらいの言葉をかけていました。大きな責任を負い、緊張を隠せない瞬間もありますが、新しい目標に燃えている様子が全身からうかがえました。ルジマトフとともに未来に向かっているアーティストたちの心の高揚が伝わってくる一日でした。
 新体制になって間もないレニングラード国立バレエ。170年の伝統の上に立ち、さらに飛躍を遂げようする若々しい力と新しい顔を、12月の来日公演で見られることを、いまから心待ちにしています。


(舞踊評論家 小町直美)


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