あらすじ
中世のフランス。フランスの騎士ジャン・ド・ブリエンヌは、婚約者ライモンダを残し、十字軍遠征へと出かける。ライモンダは、叔母であるドリス伯爵夫人の館でジャンの帰りを待ちわびている。やっと十字軍が帰還するという知らせを受け、館ではジャンを迎える宴の準備が始まる。そこにやってくるのが、サラセンの騎士アブデラフマン。彼は一目でライモンダに惹かれ、強引に求愛する。だが、ライモンダは、敢然と彼を拒否。するとアブデラフマンは、彼女を力づくで、さらっていこうとする。そこへ婚約者ジャンが帰還。ハンガリー国王アンドレア2世の命令で、ジャンとアブデラフマンは決闘となる。ジャンは勝利をおさめ、アブデラフマンはライモンダに愛を訴えながら息を引き取る。晴れてライモンダとジャン・ド・ブリエンヌは結ばれ、盛大な祝宴が催される。
舞台美術の豪華さでも定評あるレニングラード国立バレエだが、この「ライモンダ」では、より美術が際立っている。中世フランスの物語であるため、その舞台は、まるで「中世の絵巻物」だ。演出もその美術を生かしており、まるで、絵画が動き出すような最初のシーンは、ため息がでるほど美しい。
さて、「ライモンダ」の、もともとの原典(プティパ振付)では、男性主役ジャン・ド・ブリエンヌが、十字軍遠征に出かけてからのドラマが描かれているため、実際のジャンは、なかなか舞台に登場してこない。だが、レニングラード国立バレエはプロローグ的に、ジャンの出征シーンを見せてくれる。冒頭、背景画のように見える馬に、ジャンが颯爽とまたがるのだ。絵の中に人間が入り込むような素敵なシーンをお見逃しなく。
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婚約者がいるライモンダに猛烈にアタックしてくるサラセンの騎士、アブデラフマンは、脇役で悪役なのだが、観客からは強く支持される。サラセンとは、アラブ人やイスラム教徒。バレエの舞台では、イスラム文化をそれほど忠実に描写してはいない。ただ、フランス貴族然としたジャンのスマートさとは対比的に、エキゾチックで情熱的な男性としてアブデラフマンは存在している。彼が、手下たちを従えて踊るダンス・シーンも大きな見どころで、キャラクター・ダンスが大いに楽しめる。
さて、決闘に勝利したジャンとライモンダの結婚式では、二人ともフランス人のはずなのに、ハンガリー国王の御前ということもあり、その踊りは少々ハンガリー風だ。グラズノフの音楽とともに、「ライモンダ」は、様々なお国柄が楽しめる。
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ヒロイン、ライモンダとはどんな女性だったのだろう。かたやスマートなフランス貴族、一方は野生的なアラブ系の騎士という全く正反対の男性から猛烈に愛されるのだから、さぞや美しく魅力的であったに違いない。そんなライモンダは全幕のなかで、なんと5つもVa(ヴァリエーション)を踊り、それぞれに心の変化を感じさせる。『眠りの森の美女』を彷彿とさせるようなチャーミングな登場シーンの直後、花輪を手にしてのVaでは、まさにプリンセスの輝きを放ち、続いて、ハープの音色に誘われるように、物憂げにベールを手にして踊る。夢の中でジャンと踊るシーンは愛される喜びにあふれ、二幕でのサラセンの騎士を前にして踊るVaはあくまで清純さを際立たせる。そしてジャンとの結婚式では、高貴さと威厳をも見せ、女性としての成熟を感じさせる。やさしい婚約者に愛されている「箱入り」のお嬢様が、今まで出会ったことのないタイプの男性、アブデラフマンから猛烈に求愛され、心を少なからず乱されたという経験は、ライモンダを女性として成熟させたのではないだろうか。プリマにとってライモンダは、難しいが踊りがいのある役であることは言うまでもない。 |
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